キリエのうたを語る。
映画「キリエのうた」を鑑賞しました。
軽い気持ちで見に行ったんですけど気分悪くなるレベルで衝撃的な作品だったので文字に起こします。
事前情報はこのポスターくらいだったので青春ものだと思っていました。
アイナ・ジ・エンド好きなので映画館の音響で歌聴きたいというのもありました。
予告は鑑賞後に見ました。
映画見てから予告見るとセリフの印象が全然印象違いますね。
ネタバレなし感想
結論から言うとぜひたくさんの人に見てほしい作品です。
上映時間が3時間あるらしくちょっと敷居が高いですが自分は視聴終了まで2時間の映画だと思ってました。
内容は激重です。
ハッピーエンドではあるのですがそこに行くまでの過程が辛すぎます。
気分が良いときに見ましょう。
主人公は歌でしか声が出せないとのことでしたが成人時代はそこそこ喋るようになります。
場面がコロコロ変わるのでそれを留意して見ないと混乱します。
主人公の成長によって場所が石巻と大阪(小学生)、帯広(高校)、東京(成人)と変わります。
しかもこれ同時に並行してちょっとずつ進んでいくので整理して見ないとマジで頭バグり倒します。
登場人物も名前があっても重要なのかその場面だけの人なのか判断できないので面倒です。
あと濡れ場があるのキツいです。何見せられてるんだって感じします。
特にレ◯プシーンがあるのが無理。
アイナ・ジ・エンドの路上ライブシーンがあるんですけど米津玄師のLemonとかのカバーが聴けて良いです。
キリエ・憐れみの讃歌を歌うライブシーンがめちゃくちゃカッコ良かったです。
以下ネタバレあり感想です。
時系列
登場人物は以下の通り。
路花: 主人公
希: 路花の姉
真緒里: 路花の友人
夏彦: 希の恋人
まず時系列について整理してみます。
[石巻]
夏彦と希が出会う。
↓
夏彦と希が付き合う。
希が妊娠する。
夏彦と路花が会う。
↓
震災が起こる。
希が行方不明になる。
[大阪]
路花が大阪に行く。
↓
路花が木の上で暮らす。
↓
路花と夏彦が大阪で会う。
路花が施設に引き取られる。
[帯広]
夏彦が牧場に就職する。
↓
路花が帯広で里親と暮らすようになる。
路花が夏彦の家に泊まり込む。
↓
夏彦が真緒里の家庭教師を始める。
真緒里と路花が友だちになる。
↓
真緒里が上京する。
↓
路花が里親に引き戻される。
[東京]
路花が路上ミュージシャンとして上京する。
路花と真緒里が再開する。
↓
路花と真緒里が一緒に暮らす。
↓
真緒里が失踪する。
路花と夏彦が再開する。
↓
路花が路上のライブに参加する。
石巻の話は大阪編の回想として出てくるので大阪、帯広、東京の話が並行して進む訳ですが少し複雑ですね。しかも頻繁に変わるし。
あれどうなったんだ!?っていうシーンから別の場所の話になるのでそれぞれの場所で何があったか忘れそうになりました。
例えば真緒里が警察に追われているらしいってなったシーンとか。
予告で名前挙げられてるけど風美はそこまで重要な役じゃなかったですね。
小学校時代、震災で家族を失って、トラックに忍び込んで大阪に来て、木の上で暮らしてた路花を夏彦と引き合わせるだけって感じでした。
予告映像に4人の13年間ってあったんですけどこの人は過去でしか出てきてない気がします。
もしかしたらライブのシーンにいたのかも知れませんけどセリフはないはずです。
なので路花、真緒里、夏彦それぞれの人物について語ります。
路花
現代ではキリエを名乗っていますがキリエ(希)は行方不明になった姉の名前、本名は小塚路花です。
幼少期は喋らない女の子、上京時は喋るより歌うほうが好きな女の子でした。
路花と言えばとにかく不幸なんですよね。
- 震災で姉と母を失い独り身になる。
- 唯一の知り合いである姉の彼氏が大阪にいるかもと思い、トラックに隠れて大阪に向かう。
- 家がないので木の上で暮らす。
- 姉の彼氏と会えたのにすぐに引き離される。
- 引取先の里親とうまくいかない。
- うまくいかないので姉の彼氏の家で暮らすもまた引き離される。
- 結婚詐欺師の仲間だと思われ暴行される。
姉妹2人共をアイナ・ジ・エンドが演じたの、めちゃくちゃ良い配役だと思いました。
路花が何事もなく育てばこんな感じだったんだろうなあとか夏彦が成長した路花を見て希と重ねて後悔の念が募る演出とか大好きでした。
路花と希の日常シーンが少なかったので希に対する路花の感情はわかりません。
強いて言うなら成長して同じ名を名乗ったので希に対して尊敬の気持ちがあったのかなという感じです。
姉のようになりたかった、みたいな感じでしょうか、何を尊敬していたのかはわかりませんが。希が歌うシーンもなかったと思いますし。
最後のライブシーン、めちゃくちゃ良かったですね。
路上ミュージシャンを集めたフェスみたいなのに参加する路花(キリエ)、初めてミュージシャンぽいことができてよかったなああと嬉しかったです。
途中で警察が乱入するんですけど法に抗うのがカッコイイみたいな感じがして安直だなあと思いました。詐欺師として警察に追われる真緒里と重ねてるんですかね。
この話は路花のための物語だったんだなあと思います。
夏彦や真緒里はもちろん続々と集まるバンドメンバーだったり、スタッフだったり、登場人物のすべてが路花の舞台のためにいるような。
希が行方不明にならなければ路花は音楽をやっていませんし。
最終的にこの話で一番幸せな位置に着地したのが路花だったと思います。
路花には多くの困難がありましたが、彼女がこの物語の主人公だったことが一番の幸運だったと言いたいです。
キリエとして活動する路花を見てると元気貰える感じがするんですよね。
万能な人物ではないのにそれでも好きなことに打ち込む姿、それを見て多くの人が手を貸したいと思う姿、素敵じゃないですか??
眩しいよりも勇気を貰えるような感情が芽生える、珍しい主人公だと思います。
真緒里
髪型髪色がコロコロ変わる、名前も2つある、と視聴者に優しくない人です。
正直あまり好きではないキャラクターです。
上京後の路花の不幸はこの人のせいです。
でも真緒里と一緒にいるときの路花はとても楽しそうで、結婚詐欺師だったことが判明したあとでも健気に真緒里を待ち続けます。
路花の唯一の友達ですし、この人がいなくてもギターを弾いていただろうけど、上京後の活動にはこの人の存在が必須だったと思います。
この人がいなければ路花は最後まで路上で一人で歌っていたでしょう。
上京した理由は母の飲み屋を継いでママになるのが嫌だったから。
女を売るのが嫌とも言っていました。
でも東京では結局大学に行かないで働いていました。
実は結婚詐欺師をしていた訳ですが当初嫌がっていた「女を売る」ことになっちゃったのは皮肉でしょうか。
警察に追われるようになって以降で路花と再開してからは路花を巻き込む展開にならないかとてもヒヤヒヤしました。
路花が一番楽しそうだったのが帯広で路花、真緒里、夏彦の三人でギターを引いているシーンだったような気がするのでこの人は必要だったんだなあと思います。
思えばあそこからミュージシャンとしてのキリエが始まったんですね。
夏彦
個人的に一番救われない人でした。
夏彦を語る上で外せないのが震災の直前に希に電話した要件です。
夏彦はこのときのことをずっと悔やんでいます。
大学受験が自分の思ったとおり行かなくて、希に伝えていた未来と違って遠く離れた土地である大阪に行く未来が決定して、それが申し訳ないから連絡を取りづらくて避けていただけならここまで悔やむことはないと思います。
希の「(地震で)揺れてる?」という発言を夏彦は「(気持ちが)揺れてる?」と受け取ったようでした。
気持ちが揺れる、つまり迷うような決断をしたのでしょう。
作中では震災に遮られて語られませんでしたがこの電話の用件は別れ話だったと推測しました。
妊娠させたのに別れようとした夏彦の身勝手さと自らが危険な状況なのに妹のために走る希の優しさとの差、これに夏彦は後々苦しめられます。
被災時は本当に希のことを心配しているようだったので完全に心が離れた訳ではなかったのかなと思います。
離れた土地に行くから希のためを思って仕方なく、にしても身勝手だと思いますが。
夏彦との関係を説明するっていう話のときに希が確認するように「フィアンセって言っても良い?」って確認するように言ってて夏彦が電話をかけた理由に感づいていたように見えて辛かったですね。
希と路花を重ねてしまって路花に謝るシーンめちゃくちゃ辛かったです。
真緒里に対する「仲良くしてあげてほしい」だったり、呼ばれたら大阪でも東京でも迎えに行ったり、夏彦が路花を心配していたのは路花に希の面影を見ていたからなんだなと思いました。
一生悔やんで生きて欲しいですね。
おわり
おさんぽしてたら戦場に紛れ込んでしまったような作品でした。
路花が音楽で生きていけるようになるきっかけみたいな話だったので後味が悪い訳では無いのだけれど、なんとも言えない不気味さがあります。
希が生きていれば路花がミュージシャンとして活動する未来はなかった訳で、このエンディングが最良なのか、と言われると違う気がします。
希、夏彦、真緒里はマイナス方向に倒れて終わりました。
アイナ・ジ・エンドがめちゃくちゃカッコイイので当初の目的は達成できました。
登場人物に一切共感しないで見られたのも良い経験でしたね。
キリエの実在性良くないですか?
実際にキリエというアーティストはいない、でも同じ顔の、同じ見た目の、同じ声で同じ歌を歌う人はいる。
こういう物語って我に返ってフィクションだったってガッカリするんですけどアイナ・ジ・エンドがいるから良い気持ちがするんですよね。
こんな感じで幸か不幸か一言で結論づけられる作品ではなかったので自分にとっては終わりに一石を投じる作品であることは間違いないです。